かつて、「ウィンストンの教科書」と呼ばれたプレイヤーが存在していた事を、皆さんはご存じだろうか。その名はmiro。OWL発足前、今から約7年前に韓国で開催されていた大会、APEXにおいて活躍したプレイヤーだ。
彼は「ウィンストンをプレイするためだけに生まれてきた」と言わしめる程の才能を持っていた。当時のウィンストンというキャラクターはプロの間でも扱いが難しいキャラであったが、彼の操るウィンストンはミクロもマクロも他を寄せ付けないほど圧倒的だった。しかもその華麗なプレイの数々が、「本能の赴くままにプレーした結果」だと本人は語っている。全く持って驚異的な話である。
そんな才能の化身であった彼は、APEX season2 season3を連続で優勝した。彼の所属するLunatic-Haiは正に黄金期を迎えたのである。メンバーを変えること無く挑んだseason4。誰もがLunatic-Haiの3連覇を期待していたであろう――
しかし。蓋を開けてみれば5-6thフィニッシュ。プレイオフ進出をかけて行われたグループトーナメントでGC Busanと二回戦い、ともに0-3で敗北したのである。そしてこの試合のあるプレイが、ウィンストンの絶対君主であったmiroが、既にその王座を明け渡していた事を私たちに知らしめたのである。
そのプレイがこちらである。
プライマルレイジを発動したmiroが、GC busanのD.vaのブーストによって一瞬で奈落の底に落ちている。このプレイは一見偶然の産物であるかのように思える。しかし、後にGC busanのコーチはこのプレイを「miroのプレイスタイルを分析し、選手に練習させていた」と語った。そしてこのシーズンをきっかけに、数々のウィンストンプレイヤーが名をはせることになるのだが、それは別の話。
兎にも角にも、season4においてmiroのパフォーマンスが悪かったのは彼の調子などではなく、彼自身ですら説明がつかない程の圧倒的な才能を分析され、奪われていた結果なのである。これがseason3が終了した日から2ヵ月程で起きた出来事であるのが、その分析力の高さと恐ろしさを物語っている。
そしてもう一人、似たような例がある。それが今回の題名であるSan Francisco Shockと二度にわたる激戦を繰り広げたVancouver TitansのメインタンクであるBumperだ。
OWL2019シーズン。新規加入のVancouver Titansは、OWLレベルの強さを誇るとされるコンテンダーズKR1位の実績を知らしめるかのようにリーグを暴れまわった。Stage 1のリーグ戦を全勝で勝ち上がり、プレイオフを決勝まで一つのマップすら落とすことなく勝ち上がった彼らは、San Francisco Shockと相対する。結果は4-3。最終マップまでもつれ込む激戦の末、Vancouver Titansが勝利したのである。
時は流れStage2。決勝のカードは再びShock vs Titansとなった。結果は4-2でShockが勝利した。Stage1の雪辱を果たしたShockであったが、このStage1とStage2において実はかなり面白いデータがある。それが両メインタンク、superとBumperのアースシャッターについてである。
このStage1と2の頃は圧倒的にgoats環境であった。goatsについてここでは説明を省くが、Stage1も2も決勝は両チームともハルト/ザリア/D.va/ブリギッテ/ゼニヤッタ/ルシオの構成をピックしており、ほぼミラーマッチであった。goatsについて多少の知識がある方ならご存じだろうが、アースシャッターをどう刺すかはgoatsにおいてかなり重要なファクターである。数秒間のスタンが戦場に与える影響は考えるもなく大きいし、全員にヒットすればたった一つのウルトで集団戦に勝つことが出来る。このウルトを刺すために様々なスキルの組み合わせが考慮された歴史もあるのである。
ここで注目するのは、アースシャッターが刺さらなかった回数――つまり、ハルトのシャッターで誰も転ぶことが無かった回数である。stage1とstage2でその数を集計したところ、次のデータが得られた。
Stage1
・super 7回
・Bumper 7回
Stage2
・super 7回
・Bumper 14回
その差は一目瞭然である。superの数に変化が無いのに比べて、Bumperの数は2倍にまで増えている。ちなみに、Bumperの1回のアースシャッタでスタンした平均人数は、1.6人から1.1人にまで減っている。
これは明らかに、偶然の類などでは無く、明確な意図がそこにはある。実際、集計中に動画を見ていたのだが、明らかにshockはtitansのシャッターを止めていた。それはハルトが盾でブロックした……というものではなく、ブリギッテのバッシュで止めていたのである。この光景はstage1ではほぼ見られなかった。しかしstage2のファーストマップ。まるでシャターを撃つタイミングが分かると言わんばりに、バッシュを繰り出すブリギッテがそこにはあったのだ。
Bumperは当然ながら、この時最上位の評価を受けていたメインタンクであった。しかしこの敗北以降、彼のキャリアは坂道を転がり始める。リーグの後半にはメインタンクの座をリザーブへと明け渡し、そしてとある事件を起こす。それ以降、リーグで彼の名を見かける事は無くなってしまった。今何をしているのか、筆者は何も知らない。
たった数か月の戦いで、ここまでの実力者が丸裸にされ、弱点となってしまうほどに、このリーグの研究力というのは恐ろしいのである。それには、思わず畏怖を覚えてしまうほどだ。
参考資料